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ランチ酒 おかわり日和/祥伝社

カラスの親指

2020年2月14日 よりみち酒場 灯火亭 はコメントを受け付けていません。 Views: 73 book, News

よりみち酒場 灯火亭

良書です。
涙がこぼれます。

今、私は間借りレストランをやっているのですが、この小説を読んでいると取り入れたいなというメニューがよく出てきます。食べた感想もさることながら、作り方もかなり本格的に説明してあって、「あ、こんな料理を作ってみたいな」とか「あのお酒と合いそうだな」と想像が膨らみます。こんなお店があったら行ってみたい、こんなお店を作りたいという食を軸にいろいろなことを考えさせてくれます。

舞台はたぶん三軒茶屋。そこにある小さな和食店「灯火亭(ともしびてい)」の常連さんやスタッフにまつわる、かなりいい話。寒いときに、店内に入り、ぬる燗を飲む。その温かさが五臓六腑に染み渡るように「じんわり」と心に温かさが染みるエピソードがちりばめられています。

茅ヶ崎の取材が入っている頃、電車に1時間30分とかそこそこ長距離乗るので旅のお供にと手に取ったのですが、まぁ早々に涙ぐみました。予定調和な流れで話がまとまっていくのかと思いきや、想像を軽く超えていく。そんな展開ばかりです。たしかに居酒屋でおいしい料理とお酒を目の前にすると、絡まっていた心がほどけていく。ほどけて家に帰って終わりというわけではなく、料理と誰かに話すことでほどけた心は何かが変わるということがよくわかりました。

たとえば仕事でトラブルがあってむしゃくしゃするとしますよね。居酒屋に入って、はじめはいらいらとしてた心が料理とお酒でほぐれていくのです。どうしてあんなことになったのか、なぜあのようにいわれたことに対してあんな言葉で返してしまったのか。そんな反省だけで、自己嫌悪になっていたのに、おいしい料理がそのことをうまくほぐしてくれます。なんで相手はそんな言葉をぶつけてきたのか、なんでそんなことになったのか。そして、ふと、原因が見えたり、自分の至らなさがわかったり、相手の愛情が見えたり。そんな人生のヒントが降りてくる。

何度か登場するフレーズに「来た時と帰るときの顔つきが変わっている」というようなことが書かれているのですが、そんな魔法が起こるのが居酒屋なんだろうなと思います。

自分が間借りを初めて半年。常連さんもできました。こんなことをいうとおこがましいですが、お客さんは自分と話すのを楽しみにいらっしゃっているんだろうなとよく思います。時間があるときはいいのですが、満席になるとなかなかひとりのお客様とじっくりとお話するということはできません。場数を踏めばできるのかもしれませんが、まだまだそんなことができないんです。でも、この本を読んで気が付いたのは「言葉を使わなくても表情で、たとえば笑顔や会釈だけでも会話はできる」と知ることができました。

たとえばそれはお客さんが食べたそうな料理をお通しで出す、ということも立派な会話です。言葉と言葉で行う会話よりもずっと深いところにまでいけるかもしれませんよね。熱を加える、たったそれだけでごちそうに早変わりします。お浸しも冷たいままではなく温める。煮びたしも温めるだけで香りが開きます。たったそれだけですが、たったそれだけのことでぐっとお客さんは話しやすくなります。

季節だけではなく、お客さんのことをよく見て料理を提供する。なかなかできることではありませんが、意識するだけでかなり違ってきます。料理のもつ力。それを再認識させてくれた一冊です。熱燗もレンジで温めていましたが、湯銭してみようと思わせてくれました。たぶん、お酒によって適温があるのでいろいろと試してその温度を見つけることができたら、もっと楽しくなるんではないかなと思います。

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